’97茂木ロードレース選手権第1戦

作成日:97/09/18
更新日:98/07/22

第1章 −序章−

9月13日 公式練習
朝7時過ぎ。ゲートオープンから10分程遅れ、北側よりサーキット入り。
全面ウエットの北ショートコースを左手に東コースのピットを目指し、車を進める。
途中、5コーナー,130R,S字,Vコーナーの路面を確認するが、北コース程濡れてはおらず、
「このまま降らなければ1本目の走行は今履いている中古スリックでそのまま行けそうだな」等と考えながら今にも泣き出しそうな天を仰いでみたりする。

東のパドックに到着し、RSオータのトランポを発見すると、隣にやたらかっちょえーエースーパーGLが止まっていた。
町田中央のお二人さんが隣のピットである。楽しい1日目を送れそうな予感を感じつつ準備に取り掛かる。
一段落した所でパドックをうろつくと、SP忠男やドックファイトのピットは豪華設備でやはり目立つ。
ここ6年程ハイランドのローカルレースに染まっていた為、そんな事にすらいつもと違うレースの緊張感を感じてしまう。

GP125の公式練習1本目が始まった。路面はハーフウエット。各ライダーのタイヤ選択はまちまちだが、レインタイヤ装着車が若干多い感じだ。
町田中央の二人がスリックでピットアウトしていく。路面は乾く方向に向かっている。
たばこを吸いながらヘアピン進入を見学する。走行経験の少ないサーキットではライダーの技量が如実に表れる。
慎重に数周にわたり、ブレーキングポイントを探っている者もいれば、1周目から奥までつっこんでくるライダーもいる。
今の所、125のブレーキングポイントは100メートル看板を前後している。
町田中央の二人も目の前をする。順調に走行を重ねている様だ。

そんな中、60メートル付近まで全開にしているライダーが目の前に飛び込んできた。
直後のコーナーがヘアピンだという事を忘れていたかの様に・・・
「うわっ、オーバーラン!」と思った瞬間、コーナーのアウト側いっぱい(殆どのライダーが倒し込みを開始する地点)迄直立だったその車体は、
バンクしたかと思うと急に方向を変え、安定感を保ちつつ一次旋回を終了し、誰よりも速くアクセルを開けていた。路面はまだ濡れているのに・・・・

125の走行が終了したと同時に、たばこの灰が落ち、少々にやけ顔の自分がいた。
GP250クラス1本目の走行が開始された。スリックで行けるとの路面情報をいただき、あと2本程で終わるスリックでコースイン。
路面の状況を確認しながらゆっくりと1周目する。125が走ってくれたおかげでライン上はほぼドライ。
徐々に開け気味で周回を重ねるが、どうもグリップ感が掴めない。おまけに単独走行の為、ペースが解らずピットイン。他のライダーを待つ。
何台か見送った後、再度コースイン。いいペースで走行しているライダーを見つけ、暫く後ろをつかせてもらう事にした。

何とか感じを掴んだので抜かせてもらい、さらにペースアップした所、130R進入で以前から発生していたチャタがさらに悪化し、アンダー気味でアクセルが開けられない。
5コーナーから1→2→3→4とシフトアップした所で迎える130Rだが、4速でどうしても戻してしまう。
多少無理をしてフロントの過重を抜くイメージで戻さず進入すると全開開始ポイントが遅れてしまい、タイムにつなげられずリスキーなだけ。
路面も全面ドライとなりかけた頃、結局それ以上は無理もできず、タイムも落ちていき、チェッカーとなった。

フロントの問題はセッティングで解決できる範囲だが、ピットに帰ってきて驚いたのはエンジンだった。
右側のピストンに異常なまでのデトネーションが発生しており、それはピストンの形すら変える程だった。
吸排気両方まんべんなく発生したそのピストンを他の中古ピストンに交換し、安全策で濃い目のジェットを入れた頃、
降り始めた雨は折角乾いた路面を隅々までウエットに戻してくれた。
125の2本目がスタートした直後だった為、各車続々とピットイン&タイヤ交換を行っていた。
私も飯田さんのタイヤ交換を手伝ったが、250とは勝手が違い、要領が悪くてあまり役に立たなかった。
GP2502本目の走行が開始される頃は雨も止み、1年前に使った(しかもハーフウエット)中古レインでコースインする。
しかし、所々乾き始める路面コンディションに、ちょっと硬質化した熟成レインがみょぉ〜にマッチしたのか、
終始立ち上がりのニュルニュルと滑る感覚を堪能しつつ、チェッカーを受けた。

走行終了後、ただ楽しんでいただけの自分に気づいて少々反省したりもした。
気になっていた右側のヘッドを開けてみると、状況は変わっておらず、ピストンヘッドに発生したデトネーションはついにシリンダーヘッドにまで及んでいた。
刻々と変化する路面状況に翻弄され、アクセルを開けられず、高速走行時でも中間を多用し、長い下りのストレートもさらに拍車をかけたのだろうか・・・・・?
・・・と言う事にし、右側のみベースガスケットを厚く、点火タイミングを標準に戻し、両方のピストンを新品に交換する。
公式練習は各クラスとも2本しかない為、これで予選でのならしを余儀なくされた。

時折霧雨が降る中、車中の宴会は夜11時過ぎまで続いた。

第2章 −予選−

レインコンディションで向かえた予選はいつに無く乗れていた。最後の方からコースインしたのに、前のライダーが次々と現れては後方へ消えて行く。
もちろん抜かれる事など無い。快調にラップを重ね、事無く予選が終了し、ピットへ帰ると何故かみんな笑顔で迎えてくれる。
RSオータ:「おまえ、6位以内確実だよ!」
俺:「そう。まぁ予選にしては、まぁまぁかな・・・。」
思わず笑いたくなる気持ちを必死でこらえながら、つなぎを脱ぎにかかる。「すげーじゃん!」「入賞、いけるっしょ。」仲間の声が遠くで聞こえる・・・・・

[とんとん]・・・・・・・・車の窓ガラスを叩く音で目が覚める。「もう入れるよ。んで、東ゲートは7時オープンなんだって。」
6時30分にセットしたはずの目覚し時計が6時50分を告げていた。

9月14日 レース当日
昨夜から降り続いた霧雨はサーキット全体を隅々まで濡らしていた。今は降っていない。
北ゲートから東のピットまでチェックポイントが3.4個所有り、厳重な警備の中、ピットへと車を進める。

ピットへ着くと1時間以内に必要な荷物を全て車から降ろし、8時迄には数百メートル離れた駐車場まで車を移動しなければならないらしい。
起き掛けの重い体を無理矢理動かし、作業する。
昨日の時点で新品レインを履かせ、前後のサスセッティングを雨用に変更してあった為、
予選まではとにかく新品ピストンのならしで暖気ばかりする。
左右の燃え方が違い、あからさまに濃い状態だと判断出来るが、安全策を重視し、これ以上セッティングは詰めない。焼き付いたら元も子もない。
受付→車検→ブリーフィングとオンタイムでスケジュールは進行していく。
その間にも路面は急速に乾いていき、GP125の予選が終了する頃はほぼドライコンディションとなっていた。
スタート前チェックが始まるぎりぎり迄待ったが、雨は降ってこない為、全てのセッティングをドライに戻す。

予選開始。
「3周はならし」とはやる気持ちを抑え、周回する。1周目、9千回転迄、2周目1万回転迄、3周目、1万1千。
4周目のヘアピンを立ち上がった所で全開走行を開始する。ならし中に抜かれたライダーが前方から接近してくる。
立ち上がりラインをとり、早めにアクセルを開ける。立ち上がりで並ぶが次のコーナーまでには十分に離され、進入で抜く事が出来ない。
そんな状態が暫く続き、やっと抜いた所でチェッカーを受けた。

予選出走14台中、12位。
結果を聞いて愕然とした。確かにバイクは遅かったが、冷静に振り替えると人間が原因なのは自分がよく把握していた。

「やはり関東では通用しないのか?」「いや、以前もならし後はタイムが出てなかった」・・・・・・
さまざまな思惑、不安や自分への勇気付けが頭の中で交錯する。
じたばたしても始まらない。
あとは本番。 決勝のみ・・・。

第3章 −決勝−

午前10時25分、GP250のスタート前チェックが始まった。
次々とスリックタイヤを装着したバイクがチェックを受けて、ピットレーンへ進んで行く。
「さて、行くか。」ハンドルを押し、スタンドからバイクが開放された瞬間、それはやってきた。
ポツリポツリときた雨がコースの色を変えるのに1分もかからなかった。
おたおたしている俺にRSオータの激が飛ぶ。「とりあえず、チェック受けて来い!ピットで交換するから!」

ピット全体が騒然となる。ホイルの交換は2人でやればそれ程時間を必要としない。が、問題なのはもう一人のチームライダーである。
彼はスペアホイルを持っていない。
諦め顔の彼にリアを目の前のタイヤサービスへ持って行く事を指示した後、約1分で俺のフロントを交換したRSオータは
彼のフロントタイヤの交換作業を開始した。
スピーカーからはこの状況を知らないかの様にコースインを促すアナウンスが流れる。
この際人の事をかまってる暇も無く、せめてリアのイニシャルを抜いた後、暖気を開始する。

水温が50度を越えてきた頃、後ろを振り返ると、前後レインに履き替えた彼がエンジンをかけ始める所だった。
顔中汗だくのRSオータがこっちを見てる。

冷静さを取り戻す。計測は既に開始されている。3周はならし走行だ。はやる気持ちを押さえ、コースに出て行く。
1年ぶりの新品レインは氷上と錯覚させる程、グリップ感が無い。肩に力が入っているのが自分でもわかる。
3列目一番右のスターティンググリッドへ到着する。後ろには2台しかいない。
もう怖いもの無しだ。後は前のライダーを抜くだけだと割り切る。

選手紹介が行われたが、自分の名前が呼ばれる頃はもうエンジンスタート直前だった。ピットクルーがグリッドから退却する。
バイクから降り、ギヤを1速に入れる。グリーンフラッグが振り下ろされ、何故か波状スタートによりサイティングラップが開始された。

タイヤの接地感は相変わらずだ。立ち上がりだけでもと無理をしてアクセルを開ける。
前のライダーが一気に近づいてくる。彼も又、同じ状態なのだろうか・・・?

グリッドでは赤旗を頭上に掲げたオフィシャルが待機しているが、自分が到着するとすぐにコンクリートウォールへ消えて行く。
各車のエンジンが唸りを上げる。スタートのタイミングは125で見ていた。約3秒。タコメータは1万1千回転でホールドする。
曇ったシールド越しにシグナルの赤が見えた。
「いち・・・に・・・さん・・・」 パッ。 グリーン点灯。 同時にクラッチをつなぐ。

1万1千前後で針が振れている。回転が安定しない。トルクが出てくるのを待ち、1万付近でやっと安定する。
「出遅れたか!?」
エンジンのピークトルクを感じると同時に、ゆっくりとクラッチを離す。つながったと思った瞬間、
一瞬にして1万3千を越える。思わず戻したくなる程の加速を体感する。
2速、3速とシフトアップしていく。同列のライダーは前にいない。2列目スタートのライダーが前から近づいて来る。
シールドが一気にクリアになる。前のライダーは、ほぼ全員最初の右90°コーナーへ備えて左側に寄っていく。
目前を走るライダーはいない。

4速、5速。左一列になったライダー達は前車の減速に合わせ、否応なくブレーキレバーを握り締める。
多少遅らせてブレーキング開始。車速を右指で調整しながらタイミングを計る。
ねらいを絞ったライダーのイン側をブロックする様に90°コーナーへ進入する。スタートで5,6台は抜いたはずだ。

そのままの順位でコントロールラインを通過し、再び90°コーナー進入の準備を開始する。
スタート直後に抜いたライダーがイン側から前に出る。次にくるショートカット立ち上がりで、セカンド全開。
タイヤのグリップ感がシート越しに伝わってくる。いい感じだ。

短いストレート後の5コーナーで再びインを刺す。進入で無理したお釣が立ち上がりでやってくるが、かまわずアクセルを開けていく。
駆動力に耐えかねたリアタイヤがグリップを失い空転する。大きくバイクが振られるが、怖くない。いい感じだ。
2速、3速、4速、130R。S字をまわってVコーナー立ち上がり。
再びリアが急激に外側を向く。反動で左イン側のステップから足が外れる。
たまらず一瞬アクセルを戻し、体制を立て直すと同時にセカンドへ入れる。シフトアップが遅れた分、前のライダーが少し小さくなった。
「後ろのライダーびびってんだろーなー」とか「とりあえず引いてんのかなー」等と思いつつ、
そのままの順位で3回目のコントロールラインを通過する。アキラのサインボードが目に入る。
[P−1]。「あいつ、トップ走ってんのか・・・」

ショートカット立ち上がりで前のライダーが近づいてくる。
「この周で行ける!」
5コーナー手前、150M看板でブレーキング。ここでは無理をしない。狙うならVコーナー進入かヘアピン進入だ。
5速から慎重に2速迄落とす。コーナー直前で1速に入ると同時にバンクを開始する。
と、その瞬間、後ろからものすごい衝撃を受けたかと思うと、あっと言う間にバイクから投げ出された俺の体が濡れた路面を滑っている。
同じ状態のライダーが視界に飛び込んでくる。

「やられた!」
即座に立ち上がり、横たわった自分のバイクに近寄る。肩が痛くて右手に力が入らない。左手の小指に激痛が走る。
無理矢理起こそうとするが、・・・・ブレーキレバーが無い・・・・。

オフィシャルが駆け寄り、俺のバイクをガードレールへ運ぶ。

「終わった・・・・・・・」

コースサイドへ非難し、この出来事の張本人に目を向ける。シールドを開け、怒りもあらわに睨み続ける。
彼は辛そうに右肩を抑えている。私に気づくと、そのヘルメットがペコリと傾げる。それでも怒りは収まらない。
オフィシャルが彼をコースサイドに導く。白旗が掲示され、救急車両に乗せられていく。

ガードレールを乗り越え、ヘルメットを脱ぐ。いつの間にか雨は上がっていた。

アキラは2位を走っている。トップはドックファイトの栗山選手。その差は周回毎に広がっていく。
代わりに、スタートで出遅れ、集団から抜け出したSP忠男の渡辺選手が猛追して来る。

レースも中盤を過ぎると、ライン上は殆ど乾いてくる。全車レインタイヤによるドライ路面でのレースとなった。

残り2周、渡辺選手に抜かれたアキラは3位でフィニッシュとなった。超プライベーターの’92TZで3位とは驚愕に値する。

レース終了後、レッカー車で運ばれる。ピットに着いた頃は表彰式も終わっていた。

決勝4周目、転倒リタイヤこれが今回のリザルトである。

片付けの間中、幾度も転倒シーンが頭の中を蘇る。

茂木ロードレース選手権第1戦 後記

−ミニバイク−

帰りに北ショートコースに立ち寄ってみる。どうやら明日に控えたミニバイクレースの公式練習らしい。
全員同じ排気量とは思えない程、スピードに差がある。ダブルS字区間などは渋滞が出来ている。
・・・なんか、みんな楽しそうだ・・・
パドックを歩いてみる。茶髪の高校生風やら家族連れのおっさんやら女性だけのチームやら。
みんな一様に楽しそうだ。ほのぼのとして、自分のやってるレースとは雰囲気が違う。
パドックと言うよりキャンプ場といった感じに近い。
完全に一線を画しているカテゴリーだ。

しばらく眺めている内にやっと冷静さを取り戻す。原点を見直した気がする。

−帰路−

帰りの車の中、今回のレースを振り返る。いつもの習慣だ。
追突された結果のみに怒りを表し、悪気のない不可抗力に対し、侮蔑と憤怒の念をぶつけ、
それでも尚気持ちの収まらなかったぶざまで身勝手な幼い自分に憤りを感じていた。
痛たそうに右肩をおさえた同じクラスを戦うライダーに駆け寄り、本心から「大丈夫ですか?」の一言をかける事の出来ない自分に・・・
ライダーとして、スポーツマンとしてまるで成長していない自分に・・・

何様のつもりなのか? GP250だから偉いとでも思っていたのか? 誰よりも速くなるつもりでいるのか?
速ければどうなんだ? それで楽しいのか? それで満足なのか?

おまえはなんでレースをしているのだ!?

自問自答が繰り返される。自分が恥ずかしく思えてくる。
GP250でレース活動をして行く上で見失ってはいけない事を北ショートコースにいた人達に思い起こされた気がする。



−追記−

今回のレースでマシン整備、セッティングの一切をやっていただいたRSオータ及び
常にコンセントレーションに気を配り、メンタルコンディションに全霊を傾けてくれたGOMAの両名に対し、
心より感謝の意を表す。

以上

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