公式予選(8月21日)
作成日:98/08/26
更新日:98/08/30

明けて金曜日。予選当日。

昨日に引き続き、朝からよく晴れている。パドック全体を照らした朝日が、寝起きの体には眩しすぎる。

隣にローのトランポが止まっている。昨晩のうちに来たらしい。全然気づかなかった。

ここ最近、練習日でもあわただしかったが、予選日ともなればさらに忙しくなる。

参加受付は昨日のうちに済ませてあった為、最初にやらなければいけないのは、7時半から始まる公式車検。

なにしろ100台もエントリーしているので車検場の混雑を避けるべく、速攻で準備する。

無理矢理台車に乗せた3人分の装備一式、予備のガソリンタンク、補給装置(携行缶)、バイク。
アンダーカウルは外してシートカウルに乗せる。これらを4人で手分けして、車検場迄運ぶ。

車検場に入ったのが7時半ちょい過ぎ。チェックを受けているチームは1台も居ない。どうやら我々が最初の客らしい。
車両仕様書を係員に渡し、チェックを受ける。

バイクは前後のブレーキ周りとステップ周りを簡単にチェックされただけ。一発OK。チェック内容がかなりあまい。
装備も全て一発OK。(RSオータなんか全部新品だし)

携行缶とガソリンタンクの扱いが分からず戸惑っていた担当者だが、車検済みのシールを貼ってもらい、これもOK。

バイクに車検済シールを貼ってもらい、一旦外に出る。続いて音量測定。
これだけは自信がある。RC−SUGOキットのこのでっかいサイレンサーは、相当に静かだ。

「んじゃ、8,000回転でお願いします。」と言われ、その通りにする。

「はい!おっけーでーす。」エンジンを切り、サイレンサーにマーキングしてもらう。

「公道でもおっけーです。」などと言われながら、「ども。」と苦笑しつつ車検場を後にする。

予選前迄の事務手続きがこれで全て終了した。一旦ピットへ帰り、一息入れる。
RSオータは休む間もなくクラッチを新品に交換している。

一服していると、すぐにブリーフィングが始まる時間となった。
クラッチ交換をRSオータに任せ、アキラとGOMAと3人でブリーフィングへ向かう。

「ブリーフィングルームって、あのライセンス取る時に講習会やった部屋だよな?」

「あんな狭い部屋じゃ人入れないでしょ。100台もエントリーしてんのに。」

「他にもっとでっかい部屋あんのかな?」

などと話をしながらコントロールタワーの方へ歩いていく。



ブリーフィングルームのある棟の前ではやたらと人がごった返している。

見てみると、部屋に入る前で出欠のチェックやら資料の配布やらでメチャクチャな状態になっていた。
部屋の中に人はそんなに入っていない。

「うわっ。なんじゃこりゃ・・・。」
このどさくさまぎれ、「俺、受付済ますから、先に部屋入って場所とっといて。」とGOMAに頼む。半ば何でもアリな状態。

受付のネーチャンは全員パニック状態に陥っていた。この状況を見る限り、どうも順番待ちの秩序など無くなっている。
全員がしきりに自分達のゼッケンナンバーを叫び、聞こえた範囲でエントリーリストに赤丸をくれている受付嬢。

(成る程。)完全に状況を把握した俺は、大きく息を吸い込む。

「な、ななぢゅぅぅはちばんんっ!」 半ば怒鳴らんばかりの勢いでネーチャンへ向けて叫ぶ。

すると、「はいぃぃぃ。78おっけーですぅぅ。」もう半泣きになっていた。

悪いことしたとは思ったが、こっちも必死だ。(何に?)彼女も仕事だ。いい経験になっただろう。(何が?)

ブリーフィングの資料を受け取り、部屋に入る。GOMAとアキラがその真ん中の席をキープしておいてくれた。

椅子に座って始まるのを待っていると、次から次へと人が入ってくる。椅子はとっくに満席で、立っている人も満杯。
それでも部屋の外にはまだまだ沢山人が居る。

容易に想像出来る、最悪の状態に陥っていた。

暫くして、やっと係りの人が来る。

「1チーム2名迄にして下さぁ〜い。」口に手を添えて叫んでいる。

「監督とライダーの方1名だけ残って、メカニックその他の方は申し訳ありませんが、退室して下さぁ〜い。」

「えぇ〜今日は大変エントラントの方が沢山おられますので、1チーム2名とさせていただきますぅ〜。」


「んじゃ、俺戻っていい?」とアキラ。

「うん。わかった。俺とGOMAで聞いとくわ。」

予定の時間を10分程過ぎた頃、やっとブリーフィング開始となる。

競技監督から、予選と決勝について一通りの説明が行われ、その中でいくつかルール変更の話が出た。

まず、スタートライダーは第1ライダーとなっていたが、チーム内で予選中の最高タイムを出したライダーがスタートライダーとなった。
スタート直後の1コーナーの事故防止が、その主な理由。

我々のチームはどっちだろうが、アキラがスタートライダーをやる事に変わりはない為、何の問題もない。

あらかじめ特別競技規則に則り、作戦を立てていたチームには影響があるだろう。

次に、補欠ライダーを含む全ライダーがポールタイムの130%以内に収まっていないと、そのチームの決勝への出場資格が得られなかったが、
130%を越えられなかったライダーのみ出場資格を失うことになった。
例えば、3名でエントリーしているチームの第3ライダーが130%をクリアしていないと、そのライダーだけが決勝を走れない事になる。
極端な例で言うと、2名でエントリーしている所は仮にポールタイムをだしたとしても、
もう片一方が130%をクリアしていなければ、決勝を走ることは出来ない。

130%と言えば、仮にポールポジションが1分58秒だったとしても、2分33〜34秒。
少なくとも、うちにそんな遅いライダーは居ない。

最後に競技監督から質問を促される。
ピットロードに置かれた減速用のパイロンに近いピットに割り振られたチームからいくつかクレームが上がったが、
機転を利かせ、うまく対処していた。(あんまりしつこいんで、しまいにゃ困ってたけど。こーゆー事言う奴は勿論一流チーム)
ブリーフィングの終了時間が押し迫った頃、70分耐久レースの説明が始まった。

「そーいや、なんか送られてきた資料に入ってたな。」
予選落ちしたチームで70分の耐久レースを行い、その上位6チームが決勝に出られると言う内容のもの。
つまり、敗者復活戦。

「あぁ・・・。腹減った。早くAセット食いてぇ。」
70分耐久の事など最初から眼中に無かった。よっぽどのトラブルとかが無い限り、予選落ちなんか考えられない。
考えているのは、ドラサロが混み出す前に今日明日限定の朝食、Aセット500円を食う事だけ。

(これ終わったら速攻ダッシュしなくちゃな・・・。)

70分耐久の説明が続く。

1回のライダー交代が義務づけられるだけで、給油の方法も自由。

(BセットやCセットじゃダメだ。Aセットじゃないと話にならん。)

主催者推薦が無い場合、最大上位10チームが決勝に出られる可能性がある。しかし今、約束出来るのは上位6チーム迄。

(その辺の遅そうな顔してる奴ぅ。ちゃんと話聞いとけぇ〜。)

70分耐久の説明が終わり、ブリーフィングが終了する。その後誰よりも早くAセットを注文したのは言うまでもない。

「え〜せっとひとつ!」暫し、至福の時間を過ごした。



朝飯を食い、ピットに戻ると、相変わらずRSオータが1人で作業を続けている。
椅子に座り、それをじっと見ている人が1人居た。

「あれ?」予選から手伝いに駆けつけてきてくれたL1A氏。あらかじめ送ってもらったMFJライセンスの写真から、顔は知っていた。

「ども。初めまして。」簡単に挨拶を済ませ、クレデンシャルとスタッフTシャツを渡す。

ブリーフィングで言われた内容をアキラとRSオータに伝える。

ついでのように、敗者復活レースの話もしてみる。

「ナナジュッタイ(70分耐久)なんぞやりたくねーしなぁ。」

明日の7時間耐久を控え、今日の夕方になって、なんで中途半端な耐久レースをしなけりゃいかんのじゃ。

「エンジンだって、温存しとかなきゃいかんし。」

「大体が早めに切り上げて飲みてーよな。」(笑)

「わはははは。」

冗談を言っている間に(本気だけど)、コース上ではAグループ第1ライダーの予選が開始された。1回の予選走行時間は30分。

予選はAグループの第1ライダーから、Bグループの第1ライダー、Aグループの第2ライダー、Bグループの第2ライダー・・・と順に行われる。
今走っているAグループの次は、うちの第1ライダー、アキラの出走となる。

本当は第2ライダーの俺が最初に走り、一発予選通過タイムを出してから、
さらにアキラに追い打ちをかけてもらう予定だったが、スケジュール上そうはならなかった。

少々盛り上がりに欠ける所だが、所詮は予選。まぁよしとする。

モニターを見ながら通過基準タイムを予想してみる。

「どぉ〜れ。ビックバイクどもはどれくらいのタイム出してくるのかなぁ?」(半ばからかい口調で)

2周、3周とラップが計測されていく。出走は44台。予選通過となる20位あたりのタイムを目で追う。

今の所、大体16秒から17秒あたり。

「ふぅ〜ん。結構速いタイム出てるんだなぁ・・・まぁ予選だしな。」

4周、5周、6周。バイクがコントロールラインを通過する度に順位が入れ替わる。

20位付近のタイムはどんどん上がっていき、予選開始から半分が過ぎた頃には、なんと14秒に入れてくる。

「お・・・・俺のタイムじゃダメじゃん・・・・。」心臓の鼓動が早くなる。

今まで、頑張っても16秒止まり。予選パワーでも15秒出るか出ないか。

(まいったな。こりゃ。完全にアキラに託すしかなくなったか。)

アキラは隣でモニターを睨み付けている。モニターに映し出されたタイムが上がる度にうるさい俺と対照的に、沈黙している。

(こいつに全部かかってんだもんな。そらプレッシャー感じるわな。)何となく、俺も寡黙になる。

予選も残すところ後10分程になった頃、20位のライダーはついに13秒代に入れてきた。アキラのベストタイム。

(げ・・・・これって・・・どゆ事?こいつら今までこんなタイム出してなかったくせに・・・。)

ピット全体が重い雰囲気となる。モニターから目が離せない。

(もう・・・もういいよ。これ以上タイム伸ばさないでくれ。)

願いも虚しく、ついに20位から22位迄のライダーが2分12秒代。
この結果にアキラのベストタイムをあてはめてみると、25位といった所。

Aグループ第1ライダーの予選が終了した。



アキラのベストタイムでも予選落ち確実。しかも昨日の公式練習を見る限り、AグループよりBグループの方が全体の平均タイムが1秒程速い。
これから始まるBグループの予選はさらにレベルの高いものになるだろう。総合してみれば、12秒でもやばいかもしれない。

(やっぱ11秒だ・・・11秒出さないと予選通過・・厳しいな・・・。あぁ・・・アキラの言う通りだった・・・。)

今まで俺がやってきたレースは、その殆どが予選落ちの無い状況だった。
筑波でやってた頃は、スプリングカップという年式落ちの400で戦われるクラス。予選落ちの台数も20台位。
’93年にハイランドでGP250を始めた頃も、エントリー数は30台から40台位。去年に至っては10台にも満たない状況だった。

対してアキラは’87年の筑波からSP125でレースを始めている。
当時、筑波のエントリー数はSP125で400台近く。予選クラスは10組以上にも及んでいた。中には1台も予選通過者の出ない組すらある。
NA時代、GP250でスーパーカップにエントリーした時は、1秒以内に10台以上も入っている中、0.05秒差で予選落ちした事もある。

公式予選に対する認識が俺とは全く違う。レース全盛の頃を戦ってきた経験が、”11”と言う数字を予想出来たのだろう。

ここへきて、ようやく自分の考えが甘かった事に気づく。あいつはエントリーリストが発表された頃から、この事に気づいていた。

アキラは既にコンセントレーションを整え始めている。ツナギに着替え、椅子に座ったまま下を向き、じっとしている。

(もうこいつを信じるしかない!)

今までも、やるときゃやる奴だった。その度、周りを驚かせてきた。今回もきっとやってくれるに違いない。

15分のインターバルをおき、Bグループ第1ライダーの予選が開始される。

スタート前チェックを受け、ピットロードにスタンドアップされているFZR。

それに跨り、一呼吸すると「じゃぁ。行ってきます。」落ち着いた表情をしている。

「おぅ。ぶちかまして来い!」

エンジンをかけ、スタンドを外す。クラッチが繋がれ、アキラがゆっくりとピットアウトしていく。

他のクルーにタイム計測とボード出しを頼み、俺とRSオータはモニターに釘付け。

計測開始から2周目にいきなり14秒。25位につける。出走は45台。

24位か25位あたりにつけておかないと、予選通過は非常に厳しい。

3周目、4周目も14秒代。その間に他のライダーが次々にタイムを上げてくる。4周目終了時点で28位迄順位を落とす。

しかし5周目、ついに13秒をきり、12秒代後半へ突入する。順位は一つ上げて27位。

(厳しいな・・・・。12秒代でも27位かよ・・・。)

その後5周に渡り、13秒から14秒代。クリアラップをとる為に間合いを詰めてるらしい。順位に変動は無く、27位のまま。

そろそろ予選終了となる。時間が無い。11周目にコントロールラインを通過した後、暫くしてチェッカーとなった。
今の周回が最終ラップ。11周目のタイムは14秒77。

そして最終コーナーを立ち上がってくる。タイムは・・・・・・。

2分12秒155!最後の最後でベストラップ更新!

「よし!」とモニターを見る。

しかし順位は27位のまま。

「・・・・27位・・・・。」

Bグループ、第1ライダーの予選が終了した。



アキラの乗ったFZRがピットに帰ってくる。

ピットロードでバイクを止め、シールドを開けると、汗だくの真っ赤な顔をして「ごめんっ!タイム出なかった。」

何も言えず、黙ってうなずくとバイクを預かりピットへ入れる。こいつは、やはり最初から11秒を狙っていた。

暫くモニターを見ていたアキラは、自分のタイムと順位を確認すると、ツナギのまま椅子に座り込み、落ち込んだように頭を抱えている。

その姿がいたたまれず、何でもいいから声をかけたくなる。

「すげーじゃん。自己ベスト1秒以上も更新したね。がんばったよ。うん。」慰めにもならない言葉をかける。言った瞬間、後悔した。

この状況で予選落ちのベストタイムを出す事が、今のこいつにどれほどの意味があるのだろう。
チームのエースライダーとして狙っていたのは11秒代。俺の想像を遙かに越えた領域だ。

黙って頷くアキラ。眉間のしわが一瞬ゆるむ。まだ予選落ちと決まった訳じゃない。

Aグループ第2ライダーの予選が終了する頃、アキラの走った予選グループの結果が発表された。

第1ライダーのAグループとBグループの結果表を見比べ、第1ライダーの予選総合順位を割り出す。

結果は・・・44・・45・・46・・・・46位!

47位以下のチームで、アキラよりも速いタイムを出す第2ライダーが、A,B両グループ合わせて5人以上居なければ、
ギリギリ50位以内で予選通過だ。

大抵どこのチームも第1ライダーに一番速いライダーをもってくるだろう。そこに望みをかける。

スケジュールは予定通り、オンタイムで進行している。Aグループ第2ライダーの走行が終了した。

次は俺の番。俺がアキラのタイムを上回ればそれでいいのだが、12秒15と言えば俺の自己ベストより4秒も速いタイム。

気合いで出せる範囲を越えすぎている。タイムなんてそんな簡単に縮んだら誰も苦労しない。

俺は俺のベストを尽くす。予選で自己ベストを更新する事に集中する。

しかし、何れにしてもまだ走らなければいけない。ピットの雰囲気は、次第に考えもしなかった70分耐久へ向いている。

エンジン温存の為にも無駄な走行は、なるべく避けたい。

スパッとタイムを出して、さっさと帰ってくるに越したことはなさそうだ。

1年ぶりのレース。精神を集中する。走行直前、何度もイメージトレーニングを繰り返す事で、緊張を紛らわす。

そして11時30分、Bグループ第2ライダーの予選が開始された。

Bグループ第2ライダーの予選に向かう俺



路面温度は高い。アキラの走行で新品タイヤの皮むきも終わっている。最終コーナーを抜けたら全開走行開始だ。

1周目、18秒51。2周目、16秒75。3周目に15秒55。自己ベスト更新。

(いける。この感じならもっと詰められそうだ。)

しかし、4周目あたりから他車に前を阻まれる。S字や最終コーナーなど、小排気量クラスではタイムの稼ぎどころで詰まってしまう。

最終コーナー立ち上がり、切り返した直後。フルバンクからアクセルを開けすぎ、リアタイヤがスライドする。

(やべっ!)思わずアクセルを戻し、事なきを得る。目の前にいたVTRはアッという間に遠く、小さくなっていく。

(あっぶねー。転ぶかと思った。)ここで焦って転倒なんぞしたらそれこそ無意味だ。

冷静さを取り戻す。慎重にバイクを抜きながら、クリアラップを狙う。

この後、立て続けに16秒代。

7周目、ダウンヒルストレートのブレーキングで1台パスし、最終コーナーを立ち上がると、1コーナー迄バイクは居ない。

(よしっ。ストレート1本分のクリアラップ。頼む、後1周走らせてくれっ!)

サインボードにピットイン・サインは出ていない。

(これが最後。今から1周計測されたらピットに戻ろう。)

1周の間、全力走行。無理をしちゃダメだ。コーナーは突っ込みすぎず、早めにバイクの方向を変え、ストレートでスピードをのせる。

最終コーナー立ち上がり。フルバンク時からジワッと開けていき、バイクが立つにつれ、全開。

サインボードを見ると”P”の文字。ピットインが指示されている。

(了解。これで帰る所だったよ。)ペースを落とし、ピットに戻る。

モニターを確認すると、やはり最終ラップで出したタイム。2分15秒230がベストラップとなっていた。

自己ベストを約1秒更新した。因みに順位は24位。総合結果を見るまでもなく、楽勝で予選落ち。

午前中のスケジュールが全て終了した。



第3ライダーの予選開始は午後1時から。暫く時間が空く。

昼休みにコントロールタワーへ行くと、予選Aグループ第2ライダーの結果が配布されていた。

受付のネーチャンにゼッケンを言い、コピーをもらう。

第1ライダーの予選総合46位に、Aグループ第2ライダーの予選結果を照合し、順位の変動を調べたい。

「え〜っと。どっか場所ないかな・・・。」

2人で座れるような机と椅子を探すが、そんなものは無い。しょうがないので、丁度受付反対側の壁際でやることにする。

「俺、こっちのゼッケンとタイム、順に言っていくからそっちチェックしてって。」

Aグループ第2ライダーのゼッケンとそのタイムを頭から順に言っていく。GOMAは第1ライダーの総合結果から、言われたゼッケンのタイムを確認する。

GOMAが見てる表 俺が見てる表

俺:「41番、1秒。」
GOMA:「はい。おっけー。」

俺:「51番、2秒。」
GOMA:「はい。おっけー。」

俺:「43番、3秒。」
GOMA:「えぇ〜っと。はい。おっけー。」

6位迄これを繰り返した所で、

俺:「57番、7秒。」
GOMA:「えぇ〜・・・。あ。きた。」

俺:「きた?きたかぁ。まず1台だな。んじゃ次、27番、7秒。」
GOMA:「えぇ〜・・・。これはおっけー。」

続ける。

俺:「1番、8秒。」
GOMA:「はい。おっけー。」

   ・

   ・

   ・

アキラのタイム迄残りあと2台。

俺:「25番、10秒。」
GOMA:「はい。おっけ・・・・いや、違う。これもだ。」

俺:「2台目か・・・。最後、67番11秒。」
GOMA:「はい。おっけー。」

俺:「次の奴は13秒だから、これで終わりだな。」
GOMA:「はい。じゃぁ、2台。」

俺:「Aグループで2台か。今んとこ、48位だな。」
GOMA:「Bグループも2台だったらギリギリ50位だね。」


厳しい状況だが、まだ望みはある。

「はぁ・・・。あと2台かぁ・・・。」ため息を付きながら振り返ると、先程コピーを渡してくれた受付のネーチャンと目が合う。

なんだか悲壮な顔をしてこっちを見てる。同情相哀れむといった感じ。

ニコッと笑い、「ちょっと、そのペン貸してもらえます?」とネーチャンの持っているボールペンを指さす。

ハッとしたように、「あっ、はい。どうぞ。」とネーチャン。

受付のテーブルを借り、ネーチャンの目の前でチェックした2台に○をつける。

「ども。ありがとうございましたぁ。」と、借りたペンを返す。

「あっ。いいえぇ。」とペコペコしている。やたらと腰の低いネーチャン。

「仕事の邪魔しちゃってすんませんでしたね。」暇そうな事を充分承知していながら、皮肉を言ってからかう。
(こんな時、おやぢになったんだなぁ。と実感する。)

「いえいえ。今ちょうど暇なんで、はははは。」見れば分かる。

これ以上話していると、ナンパと思われそう(思われねって)なので、この辺で勘弁してやる事にする。

あとは俺が走ったBグループ第2ライダーの予選結果で全てが決まる。

発表が待ち遠しくて、その場を離れられない。ボケッと突っ立っている状態。

先程からかったネーチャンと目が合う度に無言のニッコリを繰り返していると、さすがに気まずくなり、一旦外に出る。

タワーの前にあるオープンテラスに席が空いていたので、とりあえずそこに座り、発表を待つことにする。

しかしどうにも落ち着きが無く、1分おきにタワーを出たり入ったり。(変なおっさんだと思われてんだろーな。)

10分程そんな事を繰り返していると、午後12時30分。待ちに待った公式予選Bグループ第2ライダーの結果が発表された。

2台以上居るのか居ないのか?ドキドキする。

第1ライダーの時と同じ要領で突き合わせをする。

GOMAが見てる表 俺が見てる表

俺:「まず、トップが28番。うおっ!58秒出てるよ。ゴッパーかぁ・・・すげーな。」
GOMA:「そんなんいいから次いって次!」

俺:「あぁ。はいはい。次はぁ〜っと。20番、0秒。」
GOMA:「はい。全然おっけー。」

俺:「82番、3秒。」
GOMA:「きた・・・・。」

俺:「えっ!いきなりきた!?そっち何位よ?」
GOMA:「53位。アキラさんの七つ下。」

俺:「3秒って・・・。ペアよか10秒も速いタイム出すなよなぁ・・・。」
俺:「あと1台か。」もうあと1台分しか余裕がない。

俺:「次いくぞ。48番、4秒。」
GOMA:「おっけー。」

   ・

   ・

   ・

12位迄1台も居ない。希望が見えてきた。残すとこあと3台

俺:「40番、10秒。」
GOMA:「えぇ〜。あ!きたっ!」

俺:「きたっ!?」
GOMA:「うん。こっち62番手。」

ここ迄で、50番手。これ以上、1台でも居たら予選落ち。残りあと2台。

俺:「もう、いいべ?」
GOMA:「えっ?これで全部?」

俺:「いや、まだあと2台残ってるけど、もうやめるべ。」
GOMA:「何言ってんのっ。早く次!」

俺:「・・・んじゃ、いくよ・・・。100番、11秒。」
GOMA:「はい。おっけー。」

(よっしゃ!残りあと1台。)

俺:「最後。92番、11秒♪」
GOMA:「きゅうじゅうにばん〜?・・・・・・あ。ダメ・・・。」

俺:「え!?何が?」
GOMA:「これも。」

俺:「うそっ!マジ?」
GOMA:「マジ。これで終わりでしょ?」

俺:「あぁ。次の奴12秒後半だからな。」

俺:「51番手・・・。予選落ちか・・・。しかしよりにもよって5とは・・・。」


がっくりと肩の力を落とす。まさか予選落ちするとは・・・。

その辺にあった400で7耐に出ようという今回のこの計画自体が無謀だったのか・・・。そんな考えが一瞬頭をかすめる。



結果を持って、ピットに帰る。

「A,B総合で51番手。予選落ちです。」集計した結果を報告する。

みんな半分諦めていたらしく、それ程反応を示さない。

「70耐かぁ・・・。」

「70耐やるんなら、もー1回予選やってくんねーかな?」11秒が出なかったアキラ。どうにも悔しいらしい。

このバイクで12秒って事自体が凄いと思うが。

ピットの雰囲気は重く、暗い。

昼休みが終わり、コースではAグループ第3ライダーの予選が始まっていた。



Aグループ第3ライダーの予選時間が終了する頃、予選の暫定総合結果が発表された。

先程集計した通り、[以上予選通過車両]の次、51番手に位置していた。

ギリギリ予選通過した50番手とのタイム差は0.097秒。

しかしまだ予選落ちが決定した訳ではない。正式結果に最後の望みを託す。往生際が悪い。

Aグループ第3ライダーの予選が終了し、Bグループ第3ライダーの予選に向けて、RSオータが準備を始める。

第3ライダー及び補欠ライダーも、130%基準をクリアするタイムで計測されなければいけない。

「基準タイム出したら速攻帰ってくるから。」RSオータも俺同様、エンジン温存策をとり、無駄な走行は避ける。

午後1時45分、Bグループ第3ライダーの走行開始。

Bグループ第3ライダーの予選に向かうRSオータ

20秒から21秒で5周計測されると、ピットに帰ってくる。

RSオータの走行終了後、まもなく公式予選正式総合結果が発表された。

勿論順位に変動は無く、51番手。しつこいようだが、予選落ち。

70耐。こうなったらもう敗者復活の70耐に賭けるしかなくなった。


本日のベストタイム
アキラ2分12秒155自己ベスト更新
HIRO2分15秒230自己ベスト更新
RSオータ2分20秒693

〜 今回の教訓 〜

・うまかったぞ!<Aセット
・7耐を甘く見ちゃいかんね。

以上

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